売上目標だけを見ていると、未達が分かった時点では打ち手が間に合わないことがあります。一方、架電数や訪問数を増やすだけでは、成果につながらない忙しさまで増えかねません。営業KPIは、売上に至る途中の変化を捉え、次に直す行動を決めるための指標です。
この記事の結論
中小企業の営業指標は、KGI(最終成果)、工程KPI、先行KPIの三層で整理し、現在のボトルネックに関係する少数へ絞ります。各指標に定義、計算式、データ元、担当、確認頻度、基準を外れたときの行動を決めます。週次で行動を直し、月次で営業工程と指標自体が適切かを見直します。
営業指標をKGI・工程KPI・先行KPIの三層で整理する
営業KPIを決める前に、最終目標と途中の指標を分けます。言葉の違いよりも、「この数字を見た後、まだ行動を変えられるか」を確認することが重要です。
KGIは最終到達点、KPIは途中の判断材料
KGIは、売上や粗利など、一定期間の最終到達点です。KPIは、その到達に向かっているかを途中で確かめる指標です。
たとえば受注額は最終成果です。提案から受注へ進んだ割合は工程の詰まりを示します。対象顧客への初回連絡や、決裁条件を確認できた案件の数は、担当者が先に変えられる行動です。
KPIを達成すること自体が目的ではありません。KGIへつながらない指標なら、計測を続ける理由はありません。
KGI・工程KPI・先行KPIを一本につなぐ
この記事では、営業の数字を三層に整理します。
層 | 確認すること | 指標例 |
|---|---|---|
KGI(最終成果) | 期間の終わりに何を実現したいか | 受注額、粗利、新規受注社数 |
工程KPI | どこで次の段階へ進めていないか | 接点から商談、商談から提案、提案から受注へ進んだ割合 |
先行KPI | 担当者が今週変えられるか | 対象顧客への接触、次回約束の設定、決裁条件の確認 |
三層は別々に並べず、一本の営業工程としてつなげます。先行行動が増えても工程転換が変わらなければ、対象、方法、提案内容のどこかを見直します。
売上目標から現在のボトルネックへ絞る
指標を増やすほど営業が見えるとは限りません。集計の負担が増え、どの数字から直すべきか分からなくなるためです。最初は、現在の詰まりを判断できる少数に絞ります。
自社の営業工程を事実で分ける
まず、案件が生まれてから受注または失注になるまでを、自社で実際に使う段階へ分けます。一般的な名称を借りるより、担当者が同じ意味で判断できることを優先します。
たとえば「接点あり」「初回商談済み」「課題と決裁条件を確認済み」「提案済み」「判断待ち」のように、各段階の完了条件を決めます。「有望」「温度感が高い」といった人によって変わる表現だけでは、工程転換を正しく数えられません。
各案件を当てはめると、件数が少ない入口と、次へ進まない工程が見えてきます。
改善したい一工程から少数を選ぶ
入口が不足しているなら、対象顧客との新しい接点と、初回商談へ進んだ割合を見ます。商談は多いのに提案へ進まないなら、課題、予算、決裁者、導入時期を確認できた案件を見ます。提案後に止まるなら、失注理由、次回約束、社内決裁条件を見ます。
最初の運用では、三層を合わせて三〜五個程度へ絞ると、毎週の判断に使いやすくなります。これは全社共通の正解ではありません。数字を見ても行動が変わらない指標は外し、現在のボトルネックに必要な指標へ入れ替えます。
紹介・パートナー経由のルートを測りたい場合は、通常の新規営業と工程が異なります。パートナー施策のKPIを設計する方法を参考に、候補接点、協業合意、紹介発生など、自社の段階を分けてください。
指標カードで定義・担当・確認方法をそろえる
同じKPI名でも、担当者ごとに数え方が違えば比較できません。一つの指標につき、一枚の指標カードを作ります。
数え方とデータ元を固定する
指標カードには、次の七項目を書きます。
- 指標名
- 何を判断する指標か
- 含める条件と除外する条件
- 計算式
- データ元
- 更新担当
- 確認頻度
たとえば「商談数」なら、日程を設定した時点か、実際に実施した時点かを決めます。再商談を含めるか、既存顧客を含めるかも固定します。途中で定義を変えた場合は、変更日を残します。
完璧な計測環境を待つ必要はありません。最初は一つの顧客台帳を正本にし、同じ締め時刻で更新するだけでも比較できます。
記入すると、次のようになります。
指標名:提案移行率
判断:初回商談から提案へ進めているか
含む:課題・予算・決裁条件・時期を確認し、提案の合意を得た案件
除外:情報交換だけで終わった案件、対象外と判断した企業
計算式:提案へ進んだ案件数 ÷ 初回商談を実施した案件数
データ元:案件台帳
更新担当・頻度:営業責任者、毎週金曜
基準外時の行動:対象顧客と商談ヒアリング記録を三件確認する
数字を見た後の行動まで決める
指標カードには、「基準を外れたら何を確認するか」も加えます。数字を赤く表示するだけでは、改善は進みません。
接点数が不足したら、対象リスト、担当数、連絡時間を確認します。商談化が下がったら、対象顧客と最初の提案理由を確認します。提案後に止まったら、顧客の判断条件、次回約束、競合や保留理由を確認します。
一つの数字だけで担当者を評価せず、前後の工程と案件記録を合わせて判断します。KPIは責任を追及する道具ではなく、支援が必要な場所を早く見つける道具です。
週次と月次で営業KPIを見直す
KPIは設定して終わりではありません。営業行動を直す短い周期と、指標自体を直す長い周期を分けます。
週次は差分と次の行動を確認する
週次では、前週との差、目標との差、滞留している工程を確認します。会議で全件を読み上げず、差が生まれた指標と案件に絞ります。
確認する順番は、事実、原因仮説、次の行動、担当、期限です。「頑張る」で終えず、対象顧客を見直す、次回約束のない案件へ連絡する、提案前に決裁条件を確認するなど、翌週に観測できる行動へ変えます。
数字を行動へ変える会議運営は、中小企業の営業会議で使えるアジェンダで詳しく整理しています。
月次は指標と営業工程の前提を疑う
月次では、KPIがKGIの変化を先に示しているかを確認します。先行行動を増やしても工程転換が変わらないなら、行動の質、対象顧客、営業工程の定義を見直します。
新しい商品、顧客層、紹介ルートが増えた場合も、同じKPIを一律に使わない方がよいことがあります。営業ルートごとに工程を分け、比較できる共通指標だけを残します。
数か月見ても判断に使わない指標は削除します。反対に、失注理由や滞留期間など、改善に必要なのに記録できていない事実があれば追加します。営業KPIは、会社の現在地に合わせて更新する小さな判断システムです。
