「中小企業を紹介し合いましょう」「経営者なら対象です」と合意しても、実際の紹介が案件につながらないことがあります。原因は相手の協力不足とは限りません。紹介対象が、相手の会話の中で見分けられる言葉になっていない可能性があります。
この記事の結論
パートナー同士の共通顧客像は、属性、顧客が抱える課題、相談の兆し、現在の代替手段、両社が関わる前後工程、除外条件、紹介する理由の七項目を一枚にまとめ、紹介後の一歩を添えます。両社の成約・失注例から条件を出し、一つの紹介会話で試し、紹介後に「合った条件・外れた条件」を更新すると、実務で使える基準になります。
この記事では、他社と協力して紹介、共同提案、共催などから案件の入口を作る活動を、広く「パートナー営業」と呼びます。会社によって「パートナーセールス」「アライアンスセールス」「アライアンス営業」と呼ぶこともあります。ここで作る共通顧客像は、個人の詳細な人物像ではなく、両社が「今つなぐべき法人の状態」を判断する基準です。
共通顧客像は紹介の判定表として作る
共通顧客像の目的は、きれいなペルソナ資料を作ることではありません。パートナーが顧客との会話で相談の兆しに気づき、「なぜ今この会社を紹介するのか」を説明できるようにすることです。
属性だけでは相談の瞬間を見つけられない
「従業員五十人以上のIT企業」という属性だけでは、今相談すべき理由が分かりません。対象企業が多過ぎるうえ、パートナーはどの会話を紹介へ変えればよいか判断できません。
「営業担当が増え、案件情報が表計算へ分散し、引き継ぎ漏れが起きている」のように、課題と変化を加えます。顧客が発した言葉や起きた出来事に近づけるほど、パートナーセールスの紹介対象を見つけやすくなります。
両社の顧客価値が重なる場面を決める
顧客層が同じだけでは協業理由になりません。両社が同じ商品を競って売るのではなく、顧客の前後する課題をどう分担するかを決めます。
たとえば、採用支援会社が人材採用を支援し、社労士事務所が入社手続きや労務体制を支援する関係があります。顧客が採用人数を増やす段階は、両社の価値が自然につながる場面です。
SparkLaboの顧客事例では、紹介中心だった社労士事務所が、採用支援・組織開発・研修企業との補完関係を作りました。4か月でスポット2件と顧問1件につながり、初年度見込売上180万円を作っています。共通顧客像は、紹介先の業種名より「採用や組織づくりが動き、労務課題も起きる状態」から考えると具体化しやすくなります。
共通顧客像に入れる七項目
この記事では実務上、共通顧客像を七項目で整理します。すべてを長く書く必要はありません。両社が同じ紹介判断をできる具体度があれば十分です。
項目 | 決める内容 | 例 |
|---|---|---|
属性 | 業種、規模、部門、役割 | 複数の営業担当がいるBtoB企業 |
顧客課題 | 解決したい仕事上の困りごと | 案件情報が分散し引き継げない |
相談の兆し | 会話や出来事で観察できる変化 | 営業増員、拠点追加、管理方法の見直し |
現在の代替 | 顧客が今どう対処しているか | 表計算と個人メモで管理 |
前後工程 | 両社がどこで価値をつなぐか | 業務整理の後にシステム導入 |
除外条件 | 今は紹介しない状態 | 課題が別領域、次の会話へ同意がない |
紹介理由 | 顧客にとって二社をつなぐ意味 | 現状整理と実装を一つの流れで相談できる |
顧客の状態を属性・課題・兆し・代替で表す
属性は候補を絞る入口です。決め手は、課題、相談の兆し、現在の代替です。顧客が何に困り、どの出来事で優先度が上がり、今どのようにしのいでいるかを表します。
アライアンス営業の担当者同士で「最近の成約顧客は、契約前に何と言っていたか」「失注顧客は何が違ったか」を出すと、机上の想像だけで作るより具体的になります。
連携条件を前後工程・除外条件・紹介理由で表す
前後工程は、両社がどの順番で価値を出すかです。同時に提案する必要はありません。片方が課題を見つけ、もう片方が専門対応を担う形でも成立します。
除外条件は紹介を断るためではなく、相手の信頼を守るために置きます。紹介理由は「良い会社だから」ではなく、顧客の現在の課題に対して二社をつなぐ意味を書きます。
システム開発企業の顧客事例では、DXコンサル、補助金支援、Web・マーケティング会社、士業・BPO会社へ協業先を広げました。5か月で開発2件と保守1件、見込売上450万円を作っています。単に「システムが必要な会社」とせず、業務整理、資金面、集客、バックオフィスという前後工程から協業先を具体化した例です。
両社で共通顧客像を作る手順
どちらか一社が完成版を渡すと、相手の顧客理解が入りません。両社の実例を材料にし、違いを残したまま小さく試します。
両社の成約例と失注例を持ち寄る
各社が最近の成約例と失注例を少数ずつ持ち寄ります。会社名や個人情報を共有する必要はありません。業種、規模、課題、相談の兆し、代替手段、決裁の背景、進んだ理由・止まった理由を、顧客を特定しない形で整理します。
実在しない理想顧客を一から作るより、実際に進んだ会話と進まなかった会話の差を見る方が、紹介に使える条件を見つけやすくなります。
共通条件と相違条件を分ける
両社の成約例に共通する課題と兆しを探します。そのうえで、片方には合うがもう片方には合わない条件を残します。
全条件を一致させる必要はありません。「採用を増やす企業」は共通でも、採用支援会社は採用計画の段階、社労士事務所は入社人数が増える段階で価値を出すことがあります。どの段階で誰を紹介するかを決めます。
一つの紹介会話で試す
完成度を上げ続けるより、一つの顧客会話で使います。まず固有名詞を出さず、「最近、営業増員で案件管理に困る会社はありますか」のように相談の兆しを聞きます。
該当する顧客がいても、すぐ連絡先を渡しません。パートナーが紹介理由を説明し、顧客が次の会話に同意してからつなぎます。最初の試行で、見分けにくかった言葉と説明しにくかった理由を記録します。
- 両社が成約例と失注例を顧客が特定されない形で整理する
- 属性、課題、相談の兆し、代替手段の共通条件を抽出する
- 両社が価値を出す前後工程と、紹介しない条件を決める
- 顧客にとっての紹介理由と、紹介後の一歩を書く
- 一つの顧客会話で兆しを確認し、同意後に紹介する
- 紹介結果から合った条件と外れた条件を更新する
紹介に使える共通顧客像を一枚にまとめる
完成した顧客像は、長い企画書ではなく、会話前に短く確認できる一枚へまとめます。最低限、七項目と紹介後の次の一歩を入れます。
紹介者が観察できる言葉へ変える
「DXに関心がある会社」ではなく、「複数拠点で同じ入力を繰り返し、月末集計に時間がかかる会社」のように、会話で気づける言葉へ変えます。
パートナー営業では、相手が専門用語を覚えることより、顧客の発言を自社の相談へ結び付けられることが重要です。アライアンスセールスの担当者が説明しにくい言葉は、顧客にも伝わりにくい可能性があります。
紹介後の次の一歩まで書く
一枚の末尾には、「三者で三十分の状況整理を行う」「まず自社が現状を聞き、必要なら協業先へつなぐ」など、顧客が判断できる次の一歩を書きます。
商品説明や料金表を先に渡すと、紹介者が売り込みを代行する負担が増えます。最初は誰が何を聞き、次に何を判断する会話かを明確にします。
相手がそのまま説明できる一枚資料まで作る場合は、BtoBの紹介用資料の作り方が補足になります。
紹介結果から共通顧客像を更新する
共通顧客像は、一度作って固定するものではありません。実際の紹介と共同施策から、条件の精度を上げます。
合わなかった理由を条件別に戻す
紹介が進まなかった場合は、「相性が悪かった」で終わらせません。課題が弱かった、相談時期が早かった、決裁者が別にいた、現在の代替で十分だった、前後工程の接続が不自然だった、紹介理由が伝わらなかった、のように七項目へ戻します。
この分類があると、パートナーを責めずに顧客像を直せます。紹介後の対応が遅かった場合は、顧客像ではなく自社の受け入れ運用を直します。
対象を広げる前に再現した条件を残す
一件進んだからといって、業種や規模をすぐ広げません。どの相談の兆し、紹介理由、前後工程が進行に役立ったかを確認します。
- 紹介先は七項目のどの条件に合っていたか
- 顧客が実際に使った言葉と、想定した兆しは一致したか
- パートナーは紹介理由を自分の言葉で説明できたか
- 顧客は紹介後の一歩を理解して同意したか
- 合わなかった条件を除外または書き換えたか
- 自社の対応遅れを顧客像の問題と混同していないか
協業相手そのものの探し方から見直す場合は、BtoBの販売パートナーの探し方も参考になります。まず、最近進んだ顧客一社について、業種・規模ではなく「相談前に何が起き、どんな言葉が出て、何で代替していたか」を書いてください。それを協業先の顧客事例と比べることが、紹介に使える共通顧客像を作る最初の一歩です。
